最近は十分栄養が付いてきたせいでしょうか、以前のように、昼間えさを求めて水底を徘徊する姿があまり見られなくなりました。陸地を作るために積まれた流木の奥に隠れ、そして茂ったウィローモスの隙間から密かに呼吸をしているようです。
それでも、エサを投入すると、その匂いに釣られて、1匹2匹、のっそのっそと現れますが、やはり活動の中心は水槽のライトが消える21時以降のようです。照明がおちた水槽の中を、部屋の明かりで見ていると、昼間には見られなかったような行動が見られます。
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水面にちょっと顔を出し、辺りを見回して危険がない事を確認すると、そろりそろりと上陸を始めるイモリ。
別段何をする訳でもないのですが、しばらく陸地でじっとしたあと、またそろりそろりと水中に帰っていきます。
ふやけてしまった体を元に戻しているのでしょうか?。それとも皮膚病にならないよう、時々皮膚を乾燥させているのでしょうか?。 |
そんなイモリたちのゆったりとした行動を寝転んで眺めていたら、1匹のイモリが急に奇妙な行動をとり始めました。
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後ろ足をバタつかせたり、体をくねらせたり、夜のイモリの行動とはまったくかけ離れた、とても激しい動きです。
「何をしているんだろう?」
とりあえずカメラを持ち出しその様子を撮影。
暗い水槽の中、激しく動き回るイモリを撮影するのは非常に難しかったですが、動きが止まった一瞬を見計らってパシャ。 |
写真では明るく写っていますが、見た目はもっと暗く、何がどうなっているのか良く分かりません。
「もしかしたら、足が引っかかってしまったのか?」
体をくねらせて、上を向いたり下を向いたりしていますが、どうも後ろ足は水草に固定されているようです。もしかしたら後ろ足が水草に引っかかってしまい、水面に出て呼吸をする事が出来ず、もがいているかも。
あわてて懐中電灯を取り出し、暴れているイモリを照らすと、イモリは今まで暴れていたのが嘘の様にピタリと動きを止めました。
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水草に固定されていたと思われた後ろ足も、実は自分でつかんでいたようで、ライトを当てられてしばらくすると、ひょいと離してしまいました。
「いったい今のは、なんだったんだろう・・・?」
と思った次の瞬間、ひとつの仮説がひらめいた。 |
「もしかして、あれがイモリの産卵?」
そう、あれこそが「イモリの産卵」かもしれません。だとしたら、せっかくイモリが産卵しようとしていたのに、知らなかったとは言え、わざわざライトを当てて産卵行動を妨害してしまった事になります。
「なんてバカな事を・・・・」
せっかくイモリの産卵の様子を観察できるチャンスだったのに、それを自らつぶしてしまうとは、悔やんでも悔やみきれません。
「もう一度、産卵にチャレンジしてくれぇ〜」
祈るような気持ちで、しばらく観察を続けていると、さっき産卵と思える行動をとっていたメスが戻ってきて、そして先ほど後ろ足でつかまっていた水草の葉に鼻を摺り寄せて、しきりに匂いをかいでいます。
「おお、もう一度チャレンジしてくれるのか?」
また驚かしてしまわぬよう、固唾を呑んでじっと見ていると、イモリはおもむろに匂いを嗅ぐのをやめて前へと移動し始めました。まだ警戒しているのでしょうか、イモリのその目は匂いを嗅いでいた水草に興味を失い、少し遠くの方を見ている感じ。
「だめかぁ〜」
イモリはまた少し前進し、匂いを嗅いでいた水草がちょうど後ろ足に来た次の瞬間、その水草を後ろ足でガシッと強く抱きしめました。
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イモリは後ろ足で水草を手繰り寄せるような行動をとりながら、体を激しくくねらせています。
「おお、これがイモリの産卵かぁ〜」
しばらくして後ろ足の動きが止まると、体をくねらせる行動がさらに激しくなり、まるで痙攣が始まったのではないかと心配になった次の瞬間、イモリは突然ピクリとも動かなくなりました。 |
「・・・・・」
沈黙が続きます。
「呼吸は大丈夫なんだろうか」
「・・・・・」
「もしかしたら、産卵ではなく死ぬ前の痙攣だったのか?」
しかし、イモリは私の心配などよそに、しばらくすると何事もなかったように水面へと呼吸をしに上がっていきました。
「あの水草に卵が付いているのか?」
イモリが産卵したであろう場所は、ちょうど水草の影になっていて、水槽の外からでは確認する事ができません。手を入れて水草の葉をひっくり返せば良いのですが、イモリの産卵は始まったばかりでしょうから、これから2個目、3個目と産む可能性があります。手を突っ込んで水草をひっくり返してしまっては、イモリが警戒して産卵行動をやめてしまうでしょう。
ここはじっと我慢です。
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しばらくすると、またあのメスのイモリが、先ほど産卵したであろう場所の近くに戻ってきて、別の水草の匂いを嗅ぎ始めました。
「やっぱ、まだ産卵は続くんだ」
そして先ほどと同じように少し前進すると、匂いを嗅いでいた水草を後ろ足でしっかりと抱きしめ、体を激しくくねらせながら、葉を束ね始めました。 |
メスは水草を出来るだけ多く束ね、その中に隠すように卵を産んでいるようです。
激しい動きが止まり、またピクリとも動かなくなりました。
そしてしばらくすると、そのメスは呼吸をしに水面へ上がって行きました。
「産卵したのだろうか・・・」
水草の葉が丸められているようですが、その中の様子は良く見えません。
違う角度から見てみようと、水槽の正面に回ってみると・・・・
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「あっ、卵だ!」
写真の中央、見えますでしょうか。下半分が白、上半分が茶色の2色にきっちり分かれた、まるでポケモンのモンスターボールのような卵が、水草の葉に包まれて産み付けられています。
「やっぱ、産卵だったんだぁ〜」 |
あれは「イモリの産卵」で間違いありませんでした。
それにしても小さな小さな卵。後ろのお母さんが巨大なゴジラに見えます。
その後も、3個目、4個目とイモリの産卵は続きます。
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イモリが産卵した瞬間の写真です。
水草の葉を後ろ足で器用に丸めて固定し、その中にお尻にある膨らんだ突起を差し込んで、産卵しています。
卵を産み終えても、しばらくそのまま動きません。たぶん卵についているネバネバで、葉と卵がしっかり固定されるのをじっと待っているのでしょう。 |
呼吸が続くギリギリまで、しっかりと後ろ足で葉と卵を抱きかかえている姿は、母性愛に満ち溢れています。
そして、呼吸をしに水面に上がって行き、また新しい産卵場所を探します。しかし、この水槽には産卵に適した水草が少ないようで、またさっき産卵した水草に戻って来てしまいました。
イモリがその水草の匂いを嗅ぎ回っていると、さっき産卵した卵が鼻先に来ました。
「それは、さっき君が産んだ卵だよ」
先程まで後ろ足でしっかり抱きしめていた卵。まだ名残惜しいのでしょうか、まるで匂いを嗅ぐかのように、しきりに鼻先で慈しんでいます。
そして次の瞬間、おもむろに口を開いたかと思ったら、自ら産んだ卵をパクッ!。
「ゲッ!」
イモリに母性愛を求めた私がバカでした。
あわてて水槽のフタを開け、イモリが産み落とした卵を全て回収しました。
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