「ひどいもんだ」
生命保険というものがこんなに腐っているとは想像も付かなかった。
20代前半に何も分からず入った保険。
もし当時のパンフレットを大切に保管していなかったら、保障期間や配当金など、詐欺とも思えるような汚いやり方で加入させられた事にさえ、一生気が付かなかったことでしょう。
たぶん多くの人が15年前のパンフレットなど保管していないでしょうから、きれいに彩りされたパンフレットに踊る高額の配当金や、厳しい条件を巧みに隠した甘い長期保障の事など忘れてしまって、保険屋に言われるがまま更新してしまっていることでしょう。
「次の更新は15年後。その時に15年前の事で文句を言うやつなどいない」
保険屋はそう高をくくっているのでしょうね。
現に私も15年前のパンフレットがなかったら、言われるがままなんの疑問も持たず更新に応じていたことでしょう。
腹は立ちます。でも、このままこの保険を放っておく事もできなくなりました。
放っておけば60歳までに、80歳までの入院保障料200万円を一括で収めなくてはならなくなってしまいます。
外資系など他の保険会社に移るにしても、なるべく若いうちに移ったほうが保険料を安く押さえる事が出来ます。それに今の保険は入院後5日目からしか保険料がおりないという不満もあります。
「どうする」
手元に保険のおばちゃんがおいていった新しいプラン(設計書)がある。
死亡保障は要らないと言ったので、死亡保障を就労保障と介護保障に変えて新たに作ってきた設計書だ。
「死亡保障は更新時に増額されますが、就労保障と介護保障は80歳まで保険料は変わりません」
保険のおばちゃんはそう言っていた。
就労保障と介護保障。2つもつけるとなると多少金額が高くなる。
「2つ付けるとなると今はいいですが、将来的に保険料負担が心配です」
今は払えるかもしれないが将来どうなるか分からない。特に65歳以上になって定年退職し、収入が極端に減った時の事を考えると保険料は身軽な方が良い。
すると保険のおばちゃんは
「将来保険料が負担になるようでしたら、はずす事も可能ですよ」
「じゃあ、生活習慣病特約もはずして、入院保障だけにすることも可能ですか?」
「はいできます」
設計してもらった保険は主契約が日額一万円の入院保障に、生活習慣病特約と就労特約特約と介護特約特約が付いているもので、主契約の入院保障だけにすれば保険料はかなり安くなる。最低ラインの入院日額一万円だけ残して他の特約は解約できるというのは将来的にも安心できる。
保険料負担に耐えかねて古い保険を解約し新しい保険にはいるのでは、将来を見越して若いうちに保険に入る意味がまったくなくなってしいますからね。
「この保険でもいいかなぁ」と思いかけましたが、このあと私が今もっている保険で、詐欺まがいの勧誘があったことが分かり、保険のおばちゃんにお引取り頂いたのが前回のお話。
「今回も私はだまされているのかもしれない」
そう思って、とりあえず保険のおばちゃんが置いていった設計書を読み直してみました。
ポイントは2つです。
1.就労保障と介護保障の保険料が変わらないこと。
2.就労保障特約、介護保障特約、生活習慣病特約をはずして、主契約の入院保障のみに出来ること。
昔のパンフレットと比べて今のパンフレット(設計書)は盛り沢山です。
規制が厳しくなって、不利な事でも包み隠さず書かなくてはならなくなったようです。
それに、保険会社が訴えられた時「約款に書いてある」という弁論が「分厚くて細かい字ばかりの約款なんて読む人いない」の一言で却下されてしまった事も大きな理由でしょうか。
盛り沢山と言っても高々5ページほどです。その気になって読めば簡単に理解できます。
20代前半で保険にはじめて入った時「細かいことを気にするなんて男じゃねえ」と、言わんばかりに、保険屋に言われるがまま適当にハンコを押してしまった事が悔やまれます。
ホント、若気の至りでした(笑)。
さて、読破してみたものの、保険料が変わらないとか、特約部分をはずせるといった事はまったく書いてありません。
「と、なると、あの約款か・・・」
縦21cm横15cm厚さ12mmの約款。
保険のおばちゃんが置いていったものです。こんなもん読むヤツなんていないでしょうけど、
とりあえず置いていかなくてはならない規則のようです。
一度始めたらトコトンというのが私の性格。信じられないでしょうけど、約款を読むことにいたしました。有史以来、保険に入るために約款を読んだはじめての人間かもしれません(笑)。
約款の前に「ご契約のしおり」というページがありました。
「約款に書いてある」という弁論が「そんなの読まない」の一言で却下されたので、約款の中でも特に重要なものを図解入りで分かりやすく説明したものが「ご契約のしおり」のようです。
いわばトラブル対策とか裁判対策といったものでしょうか。
約款のような難しい言葉では書いていないので簡単に読み進むことが出来ます。
そこを読んでみてびっくり。
なんと「就労保障特約や介護保障特約は総額500万円未満には減額できない」と明記されているではありませんか。
就労保障の600万円、または介護保障の500万円のどちらかは解約できない計算になります。
「また、オレをだまそうとしたのか・・・・」
この生命保険会社はいったいどうなっているんだ。だんだん怒りがこみ上げてきた。
「こうなったら徹底的に調べる必要がある」
さらに「ご契約のしおり」を読んでいくと、程なく新たな疑惑を発見。
就労保障特約や介護保障特約は一生保険料が変わらないと言っていたが、「ご契約のしおり」には80歳までに何回か自動更新を行う事が図解で示されていた。
主保険の入院保障には「終身型」と「更新型」の2種類の保険が用意されているようだが、
就労保障特約や介護保障特約には「更新型」しかないようになっている。
終身なら保険料は変わらないが、自動更新となると保険料が変わる公算が大きい。
しかし、「ご契約のしおり」にはそれ以上の情報は書いていなかった。
ついに「約款」に突入。
さすがに「約款」は「ご契約のしおり」とは段違いに文字が細かく言葉使いも難しい。
もちろん、図解でやさしく説明なんてしていない。
それでもめげずに読み進んでいくと、ついに紛れもない詐欺の事実を突き止める事が出来ました。
就労保障特約 第○条(特約の更新)
○更新後のこの特約の保険料は、更新日における被保険者の年齢によって計算します。
「ご契約のしおり」には「更新型」の記述しかなく、更新の時にはその時の年齢によって計算しなおす・・・・これは紛れもなく保険料が将来値上げされるという事ではないか!。
もちろん、介護保障特約にも同じ条文がありました。
さあ、この結果を良く考えて見ましょう。恐ろしい事実が浮かび上がってきます。
就労保障特約や介護保障特約は500万円未満に減額することは不可能ですので、どちらかは必ず入ってなくてはなりません。
どちらとも「更新型」であることが「ご契約のしおり」でほのめかしてあります。
そして、「約款」には更新後は保険料が値上げされる事が明記されています。
病気がちな老人になったら法外な特約保険料を吹っかけて、主契約の入院保障ごと解約せざるを得ない状況に追い込もうという戦略に見えるのは私だけでしょうか。
生活習慣病特約の解約については「減額できる」と約款に記しながらも、「会社の定める金額」に満たない減額は出来ないとなっていた。そして「会社の定める金額」を必至になって探しましたが、それについての記述はとうとう見つかりませんでした。
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販売員の話
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「ご契約のしおり」と「約款」の記述
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就労保障と介護保障の保険料
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変わらない
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「更新型」の記述のみで
「終身型」の記述がない。
そして「更新型」は値上げされる。
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就労保障、介護保障の単独解約
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可能
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500万円未満には出来ない
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生活習慣病特約の解約
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私の記憶では
「出来る」
と言っていた。
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会社の定める金額以下には出来ない。
ただし
その金額の記述は見つからない。
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「その後、どうなりましたか?」
私が約款を読破したことなど知らずに、保険のおばちゃんがノコノコと電話をかけてきた。
彼女の発言と、約款の記載との矛盾点を指摘するのも大人気ないので
「ちょっとイメージしていた保険と違っていましたので、今回は見送ります」
とやんわりと断る。
すると保険のおばちゃんはどこがどうイメージと違っていたのか根掘り葉掘り聞いてくる。
「就労保障や介護保障の保険料は変わらないと思っていたんです。それに単独での解約も出来ると思っていたし・・・」
それは思っていたんじゃなくて彼女の言った事。
しかし「言った」「言わない」でもめるのも面倒なので、私が勝手に思っていた事にしました。
すると彼女は「保険料も変わらないし、単独で解約も出来ますよ」だって。
まあね、約款を読む人なんていないでしょうから、そういえば反論する人なんて、まずいないでしょう。しかし、私は違います。
「約款を読んだんです」
どのページにどんな事が書いてあったか全て説明し、彼女が言っている事が間違いである事を指摘する。しかし彼女は手元に約款がない事を理由に
「とりあえず社に戻って約款を調べ、どういう意図でそのような事が書いてあるのか本社に確認してみます」と言って電話を切った。
さて、彼女からどんな言い訳の電話がかかってくるのでしょう。
私は、もうこのまま連絡がない確率が一番高いように思えます。
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