<ルアーキャスト 編>
「いや〜、今回はやめた方がいい」
出船を翌日に控えた最終打合せの電話の中で、船長のタムラさんは、表現の選択を普段と変えて現状を伝えてくださいました。
いつもなら「やめた方がいいと思う」といったアドバイス的な表現や、「あまり期待できないよ」といった客観的な表現を使うのに、今回に限っては「やめた方がいい」と断言しましたので、よほど状況が悪いのでしょう。
シーバスを釣らせる事がシーバスボートの仕事。だからシーバスが釣れないのならお客さんにキャンセルを勧める。もちろんキャンセル料なんて野暮なものは1円たりとも徴収しない。
この辺が船長のタムラさんのお人柄。 「福の神」の人気の一端です。
「そうですか。出来れば行きたいんですけど・・・・」
釣れないよりも釣れた方が良いですが、私の場合、釣れない事があまり気にならないんですよね。広い広い東京湾、ボートで次々と超一級のストラクチャーに案内されるだけでワクワク。
船の動き、風と潮の流れなどを瞬時に判断し、キャストしたルアーが想定した着水ポイントにビシッと決まれば、もうシビレまくり。ルアーをリトリーブしている時の、いつシーバスが食ってくるか分らないドキドキ感・・・・それだけで、かなり満足なんです。
陸っぱりじゃあ、超一級のストラクチャーをつまみ食い程度に攻めて行くなんて贅沢な釣りは出来ませんもんね。ボートならでは。私にとっては至福のひと時なんです。
「う〜ん、でも今回はムダ遣いになるだけだよ」
シーバスボートの船長さんにとっての至福のひと時は、やはり入れ食い状態で歓喜の声をあげるお客さんの姿を、操船しながら眺めている時かな。逆に、どこへ行ってもシーバスが釣れず、単純作業のようにむなしくアーを投げ続けるだけのお客さんの後姿を眺めているのは、船長さんにとってつらい事になるのかな。
「そこをなんとか、お願いできないですか」
「福の神」は、予約開始から5分程度で年間の予約が埋まってしまうほどの人気ぶり。予約開始直後の早押しで、並み居る競合を押しのけて奇跡的に手に入れた乗船権ですので「今回がだめなら次回」なんて事は出来ません。
気合が入らず、まったく乗り気でないタムラさんの気持ちは重々承知しておりますが、釣りとなると騒ぎ出す我が血を抑えきれず、必死に食い下がる。
「よしだっちさんなら、そう言うと思った」
過去の経験から私の答えをある程度予想していたのでしょう。タムラさんは、しょうがないといった感じで、しぶしぶ承知してくださいました。
ホント、わがままばかりで申し訳ございません。
4:15出船。
潮通しが良い沖のストラクチャーに向かう途中で、橋脚などをつまみ食い程度にナイトレイドで探ってみたのですが、1時間ほどの間にコツッというアタリが1回あっただけ。状況はかなり厳しそう。
「この辺は、奥まっているからな」
私のホームでも、奥まった場所では真夏は水が腐ってしまってシーバスはまったく釣れません。ですので、やはり本命は潮通しの良い沖合いと言う事になりますので、ここで釣れなくてもそれほど気にする事は無いでしょう。それがボートシーバスの素晴らしい所です。
沖合いのストラクチャーに到着。曇ってはいるものの、辺りはもう十分な明るさがあったので、ルアーをナイトレイドからタイトスラロームに変更。
ボートで少しずつ移動しながらキャストを繰り返すこと10分。
際ぎりぎりに着水し、潜り始めたルアーにシーバスがアタック。
ゴンゴンゴン!。
「ほら、来た!」
ロッドを煽ってあわせを入れると、シーバスの重さがズシッと手に伝わってきます。
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上がって来たのは50cmちょうどのシーバス。
なかなか良いファイトをしてくれました。
「この辺にはシーバスがいる」
と言う事で、写真撮影もそこそこに、ロッドを担いで戦線復帰。 |
ここが勝負とばかりにルアーを投げまくったのですが、2匹目を探り当てる事は出来ませんでした。
「潜って行くルアーを食ったんだから、もう少し浅いレンジかな」
「明るさが増したから、深いレンジを探ってみるか」
「濁りが強いから、もう少し明るい色」
工夫はしますが、まったくアタリはありませんでした。
しかしシーバスがまったくいないという訳でもないようで・・・・
ルアーを少し深めにもぐらせたあと、足元まで引いて来て、ルアーが上向きになりかけた時に、ロッドをゆっくり煽りながら水面に逃げる小魚の動きを強調させたその瞬間、ガツンとルアーをひったくるようなバイト。
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いや〜、リールを巻いていた時のヒットと違って、ロッドを煽っていた時のヒットは、バイトの際の細かい衝撃まではっきりと手に伝わってくるので、釣り上げた後の余韻が長く強く残るんですよねぇ〜。小さいけれど至福の1匹!。 |
小さなアタリやバラシなどは何回かあるものの、なかなか釣果に恵まれず、船長さんと一緒に長い長い放浪の旅が続きます。原油高の中、私のわがままに付き合わせてしまって申し訳ございませんm(__)m
船長のタムラさんも、操船の合間を縫ってルアーをキャスト。タムラさんが正攻法で攻めてくれると、私はちょっと変わった攻め方が出来るので助かります。釣れていない時は、レンジやルアーなど、試してみたい要素が沢山ありますからね。
船長さんと並んでルアーをキャスト。すると私のルアーにいきなりHIT!。
着水直後のヒットでレンジは浅い。となると、ロッドを上に振り上げて合わせを入れるとエラ洗いに出られる可能性が高くなる。合わせは右か左。瞬時にシーバスをストラクチャーから離す方向にロッドを振って合わせを入れる・・・たぶんこんな感じ。でも、長年やっていて体に染み付いている事だから、頭で考える前に体が勝手に動いちゃう。
ヒットの衝撃が伝わって来た瞬間、水面下にいるシーバスのイメージと、右側にあるストラクチャーが脳裏に描き出されると、シーバスのいる位置が浅いと脳が判断するより前に、体が勝手にロッドを左に振って合わせを入れているんです。
しかし、体は所詮、体。状況判断なんて高等な事は出来ません。
思い切りロッドを振って合わせを入れた体に、脳が緊急停止命令を下す。
そう、ロッドを振った方向にはタムラさんがいる。
タムラさんは、勢い良く自分の方に振られたロッドを見て、びっくりしてのけぞっている。
シーバスの方は、とりあえずフッキングには成功したものの、合わせはまだ甘い。
「まだ、もう少し行ける」
すみません、すみませんと、驚かせてしまった事をタムラさんに謝りながらも、冷静にタムラさんとロッドとの距離を測り、ギリギリまで更なる合わせを入れている自分がちょっとコワイ(^_^;)
さらに近付いて来たロッドから逃れるように、タムラさんは慌てて船尾と走り出す。合わせは十分になったが、今度はラインのテンションが足りない。ロッドとラインの角度が甘く、ロッドの性能が十分引き出せていない。
「もう少しロッドを後ろに引きたい」
でも、そこには船尾に向かって逃げ出したタムラさんの姿が。シーバスがこちらに向かって泳ぎだし、ラインのテンションを緩めてしまうとかなり危険な状況に。
「タムラさん、早く!」
心の中でそう叫ぶものの、長いロッドを抱えての不安定な船の上での移動は思うに任せぬようで、私の焦る気持ちも手伝ってか、逃げて行くその姿は、まるでスローモーション。
タムラさんが安全圏に逃げ出した次の瞬間、一気にロッドを煽る。
「おりゃ〜〜」
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とんだドタバタでしたが、なんとか3匹目(^_^;)
大体1時間に1匹のペース。
そして次の釣果も約1時間後でした。 |
「次の場所に移動しましょう」
ひとつのストラクチャーに向かって、タムラさんが1投、私が2投して、まったく反応がなかったので、タムラさんはそう言い残し、操舵のため船尾へと移動して行く。
このストラクチャーはシャークで攻めてみた。キャスト後にサミングをしてラインテンションを保ち、着水と同時にロッドを煽ってジャークを入れる。サミングするので当然、飛距離は落ちる。
飛距離が落ちた分、ほんの数メートル。その部分がなんとなく気になって、船長さんが船尾に移動している間にもう1回だけ、今度はその先へフルキャスト。
ルアーが着水。と、ほぼ同時に船はバックギアが入り後退を始める。船のスピードを減算して軽くリトリーブを始めると、今まさに潜り始めたルアーに銀影が襲い掛かる。
ゴン!
強い衝撃と同時に合わせを入れると、水面下で暴れるシーバスの魚体が、キラッ、キラッと2回ほど輝く。
「食った、食った!」
タムラさんはすぐにエンジンを停止。そしてバックしていた船は強い水の抵抗を受けてすぐに速度を落とす。船が後退していたのでは、ラインテンションを保つ事だけに集中するしかありませんが、船が止まればこっちのもの、一気に攻勢に出る。
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本日最大、そして最後のシーバス。
そう、これが本日最後のシーバスでした。 |
このシーバスを釣ってから、さらに2時間ほど粘ったのですが、雲の間から太陽が顔を覗かせるようになり、シーバスの反応はまったくなくなってしまいました。
新しく購入した3代目シーバス用のデジカメ 「LUMIX DMC−FX35」は、スズキクラスのバス持ち記念撮影もなく、写した写真はたったの4枚だけという、かなり寂しいデビューになってしまいました。
午前10時。まだもう少しルアーを投げていたかったのですが、タムラさんの方は、もはや精も魂も尽き果てたといった感じで、納竿。
私のわがままで出船したにもかかわらず、「釣れなかったから」という理由で、お代までまけてもらっちゃって、なんとお詫び申し上げて良いやら。
次回の予約は8月の末。まだ気温が高く濁りもきつそうです。
「今回もやめておいた方が良いよ」
「いえ、前回のリベンジを是非させてください」
そんな会話が聞こえて来そうです(笑)。
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