「1、2、3、4・・・・・」
水槽のフタを開ける時は、カナヘビが全員そろっているか必ず点呼を取ります。
冒険好きな小さなカナヘビは木の頂上から水槽の上部に飛び移り、フタとの間に出来た小さな隙間に寝そべっていることがあるから、気をつけないと脱走されてしまいます。
「あれ、一匹足りないぞ」
またやんちゃな子カナヘビがフタの隙間で遊んでいるのでしょうか、何度数えても一匹足りません。下から見上げるようにして水槽とフタの間に出来た小さな隙間を覗き込む。
子カナヘビにとっては十分身を隠すだけのスペースはありますが、どうしても長い尻尾が垂れ下がってしまいますので、すぐに見つけることが出来ます。
「どこにもいない・・・」
フタの隙間をくまなく探しましたが、どこからも尻尾は垂れ下がっていません。
もう一度点呼を取ってみましたが、やっぱり一匹足りません。
しかも行方不明になっているのは、やんちゃな子カナヘビではなく一番大きなカナヘビであることが分かりました。
この一番大きなカナヘビは石で作ったシェルターの下や流木の隙間などに隠れるようなことはまずありません。日中は石の上でのんびりとすごし、夜は木に登って寝ます。
点呼の時にいなかったことなど今まで一度もありません。
しかし、今回はこの一番大きなカナヘビが見当たりません。
なぜ急に身を潜めてしまったのでしょうか。
その理由にひとつだけ思い当たる節があります。
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これが行方不明になっているカナヘビ。
昨日の写真です。
見てくださいこの下っ腹。歩くのも一苦労というくらいパンパンに膨れ上がっています。
このおなかの状態から、今回の行方不明を推測すると・・・・。
「産卵?」
そう、どこかにひっそり身を隠して産卵の準備に入った可能性があります。
おお〜、もしそうだとすると一大事です。
ワクワクしてきました。
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「どこだ、どこに隠れているんだ」
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あちこち探し回ると、いましたいました、正面からは完全なる死角、側面からやっとのぞきこめるところに、あたりを警戒しながらじっとたたずむカナヘビを発見!。
あの一番大きなカナヘビが、こんな薄暗い場所にひっそりと隠れている姿なんて初めて見ました。
写真ではちょっと見づらいですが、おなかの下の土は色が変わっていて掘り返された痕がはっきりと分かります
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どうやら、土を掘ってくぼみを作りその中に卵を産むようです。
「いつ産むんだろう?もう産んでしまっているのだろうか?」
つい4時間ほど前、木の上で心地よさそうに日向ぼっこをしている姿を目撃していますので、まだ卵を産んでいない可能性が高いです。
かなり苦しい体制で一時間ほど観察していましたが、カナヘビは動く様子もなく、くぼみの上でじっとしたまま。もはや腰が痛くなったので、観察の継続はあきらめ、10分おきにちょくちょく見るようにしました。
何の変化もなく3時間ほどが経過。
そしてまた様子を見ようと水槽に近寄ると、なんとあの一番大きなカナヘビが暗がりから出てきてコオロギを捕食しているではありませんか。
「卵は産んだのか、産んでいないのか」
慌てて側面に回り腰をかがめて覗き込むと・・・・
画像にポインタを合わせてみよう。クリックしちゃダメだよ |
木の根元に掘られたくぼ地、今まであのカナヘビがじっとたたずんでいた場所に、小さくて白いものがあります。大きさは1pほど。
「卵・・・・か?」
暗い上にガラスが汚れていて良く分かりません。流木をどかして確認してみましょう。
フタを取るためとりあえずカナヘビの点呼をとる。一番大きなカナヘビが発見できたので、今度は全員そろっています。
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水槽の照明をどけ、フタをはずす。
そして卵が隠れている流木をどかすと・・・・
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ありました、ありました。
間違いなく産卵していました。
生まれたてホヤホヤのカナヘビの卵。
数は5個です。
鳥の卵のように綺麗な形はしておらず、空気の抜けた軟式テニスボールのように凹んでいるものもあります。
産卵しやすいように、卵は凹んで折りたたまれた形でお母さんカナヘビから出てくるようです。
時間が経てば凹みも取れると思います。
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さあ、卵を取り出しましょう。
まだ産みたてなので、卵の中では発生が始まっておらず、上下の区別をする必要はありませんが、念のため上部に印をつけて土ごとすくい上げました。
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産卵した場所と同じ黒土を十分湿らせてカップに詰め、卵がちょうど収まるくぼみを指で作り、その中に卵を一個ずつ収めました。
卵の殻は非常に柔らかく弾力があります。
無事孵化してくれるといいのですが、初めてのことなのでかなり不安です。去年は水槽内で知らないうちに孵化してしまいました。
水槽内の土はそれほど湿っていません。
表層を5ミリほど取り除けば黒く湿った土が出てきますが、表層はさらっと乾燥しています。
去年はそんな場所で無事孵化しました。
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カナヘビの飼育本などを読むと「卵は湿った水コケの上などに置く」というように、かなり湿り気のある場所を推奨しています。
私の実績と飼育本の実績を考慮すると、カナヘビの卵はジメジメした場所から多少乾燥した場所まで、かなり広い範囲に適応できるようですので、卵の管理にはそれほど神経質にならなくても大丈夫でしょう。
卵がカラカラに乾燥さえしなければ無事孵化してくれると思います。
早く赤ちゃんカナヘビに会いたいですね。
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