家族がそれぞれ出かけてしまい、私一人でお留守番状態。
夜には帰ってくるとの事なので、昼ごはんは私一人で食べる事に。
「何を食べようか」
頭にいろいろな食べ物が浮かびますが、どれもみんな食べたいといえば食べたいし、食べたくないといえば食べたくないものばかり。「これだ」といえるような抜きん出た強さのある食べ物は、なかなか思い浮かびません。
何にしようかあれこれ考えながらテレビを見ていると、偶然コンビニのおでんのCMが流れました。
「おでんか・・・・」
実は私、この歳になるまでお金を出しておでんを食べたことがありません。
びっくりしました?。
別に嫌いじゃないんです。美味しいか美味しくないかといわれれば、美味しいかな。
でも、子供の頃は夕食におでんが出てくるとかなりへこみました。
やっぱ、おでんじゃご飯食べられないですねぇ。
ちくわやはんぺん、つみれや大根を食べた後、ご飯を食べようとは思わない。
成長期の少年にとって、ガッツリご飯を食べられないおかずというのは、たとえそれが美味しくても苦手なものに分類されてしまいます。
「またおでん〜」という日程的根拠などなにもない我々子供たちの苦情の大合唱に押し出されるような形で、我が家の食卓からおでんは遠ざかっていきました。
大人になっても、お酒を飲まない私にはおでんは縁遠いものでした。
年末年始等のお付き合いで渋々居酒屋に行ったとしても、ウーロン茶片手にお好み焼きやピザなど、ご飯の代わりになる炭水化物をつまむだけでした。
そういえば、居酒屋でおでんを食べた記憶どころか見た記憶もない。
「おでんというのは一部の熱狂的なマニアに支えられている食べ物なのか?」
しかし、この季節、コンビニ各社が競ってCMを流している程の売れ筋商品なのですから、
多くの人に支持されていることは確か。
子供の頃食べたおでんは、本当のおでんじゃないのかもしれない。
ウチのおでんがまずかっただけで、本当のおでんはめちゃくちゃ美味しいのかも。
だから、たくさんの人に支持されているのかも。
美味しそうに映し出されたテレビの中のおでんを見ているうちに、そんな不安が脳裏に浮かんできました。
「どんなもんだか、一度食べてみるか・・・・」
コンビニがあんなに「おでん、おでん」といっているんです。一度くらい食べてみる価値はあるでしょう。
そうと決まれば即実行。今日のお昼はコンビニのおでんです。
一番近くのちょっとこじんまりとしたコンビニへ。
レジの横におでんが置いてあるのは知っていますが、じっくり見るのは初めてです。
「セルフサービスじゃなくて、取って貰うんだな」
お玉や箸が、おでん鍋の向こうに置かれている事から推測。
となると、買う物が決まっていないうちに店員さんに声をかけられてしまう恐れがある。
店員さんの動きをチェックしようと、無警戒にレジの方に顔を向けたのがいけなかった。
店員さんとまともに目が合う。
「お取りしますか?」
ハハハッ、最悪。これじゃまるで店員さんに「お願いします」と催促したようなもんだ(^_^;)
まだお玉と箸の位置を確認しただけで、メニューさえ見ていない。
ちょっと待ってくださいと言ったところで、店員さんを待たせた上で、じっくりおでんを観察できるほど根性は座っていない。
「どうする、どうする・・・・」
頭の中が白くなりかけた時、私の後ろを通り抜けレジに向かう青年が出現。
私の答えを待っていた店員さんも、とりあえずはこの青年の会計を優先させる。
「助かった〜」
あのかごの中の会計が済むまで、何とか時間稼ぎができそうです。
さあ、急いでおでんの観察続行です。
「メニューは・・・」
鍋の前に写真と名前、そして金額が書かれたプレートがはってあります。
「ああ、これを見ればいいわけだ」
一番不安だったのはおでんの名前を知らない事でした。
焼き鳥ならお酒を飲まない私でも少しは種類についての知識はありますが、おでんについてはほとんどと言って良いほど知識なし。たくさんのおでんだねの中から美味しそうな物をどう注文するかが最大の難関でした。
「それそれ、あっ、そっちのじゃなくて、その下の」
なんてゆびで指して頼むのはめんどくさいですからね。
それに、がんもどきだと思って「がんもどきください」と注文したにもかかわらず「がんもどきはありません」といわれたら「じゃあ、それはいったい何なんだぁ〜」って事になりますしね(笑)。
「思ったより種類は少ないな」
こんにゃくとか、白滝とか、とりあえず食べなくても味が想像できるものを除くと、残るのは10種類程度。その中から食べたいものを選んでいくと、それほど時間をかけずに買うものが決まりました。
レジのほうを見ると、会計が終わりかけたところ。ちょうど良いタイミングです。
店員さんがおでん鍋を挟んで反対側にスタンバイ。
「えっと、ちくわぶと、はんぺんと・・・・」
と、言い出すと、店員さんは私の言葉をさえぎるように「入れ物はいかがしますか?」と聞いてきた。
「入れ物?」
「小さいのでよろしいでしょうか、それとも大きいのにいたしますか?」
ああ、そういう事。
10秒ほど考える時間をいただけたら「入れ物は持って来ていません」と答える所でした(笑)。
とは言うものの、入れ物の大きさなんて知らないので「おでんを5つほど、欲しいんですけど」と答える。すると店員さんはカップを1つ取り出して、そのカップにちくわぶをいれた。
「あの容器は大きいやつなのか、小さいやつなのか」
ちょっと疑問に思いましたが、すぐに注文再開。
「それと大根と・・・」
店員さんは大根を容器に入れる。
「ん、はんぺんはどうした?」
最初に頼んだのはちくわぶとはんぺん。
ちくわぶは入れてくれたけど、はんぺんは入っていない。
まあ、そこで目くじら立てて「はんぺんを注文したのに入っていない」というのも大人気ないので、こちらも言っていない振りをしてはんぺんを再注文。
「えっと、はんぺんと・・・・」
しかし、今まで私の言葉にすばやく反応し、注文したおでんだねを確実に拾い上げていた店員さんの箸がぴくりとも動かない。
「どうしたんだ?」
訳が分からずおでん鍋に落としていた視線を上げると、箸とカップを持った店員さんはにっこり笑って「はんぺんは崩れやすいので最後にお入れします」だって。
こちらが店員さんを気使ったつもりだっただけに、かなり恥ずかしかった。
さて、家に持ち帰ってさっそく食べてみる事に。
まずはダシから。
「あちっ」
思った以上に熱い。定食屋さんで出てくるお味噌汁くらいに思っていたのですが、出来立てのカップラーメンのツユくらいの熱さ。危なくやけどするところでした。
お味のほうは・・・・うん、確かに美味しい。昔食べたウチのおでんのダシよりずっと濃厚。
「へえ〜こんなに美味しいんだ」
やっぱ鰹と昆布でとったダシは日本人にはたまりませんね。
おでんだねもやはりウチのおでんより数段上の美味しさ。コンビニの売れ筋商品になる意味が良く分かりました。
そしてもっと大きな発見が。
「いくら美味しくても、ご飯のおかずにはならない」と思っていましたが、おでんはおかずではなく、それ自体で完結した食べ物であることを発見。
メインディッシュは粗引きソーセージ。スパイシーな美味しさ。
ご飯の代わりにちくわぶ。原料は小麦粉ですが、きりたんぽのような感じ。
そして、副菜の大根に、箸休めのはんぺん。
お吸い物の変わりにダシをすすって、仕上げに玉子を食べればそれだけで満足。
「おなかいっぱい」
思った以上のボリュームにびっくり。成長期をとっくに過ぎた私の胃袋には十分な量でした。
食べている姿は完全にカップラーメンを食べている時と同じでしたが、満腹度は少し上、満足度に至っては数段上を行く美味しさでした。
もう少し早くこの味を知っていたら、スキーに行く車の中でかじったパンも、初日の出を待ちながらすすったカップラーメンも、みんなおでんになっていたことでしょう。
また一人さびしくごはんを食べるような機会がありましたら、ぜひおでんを食べてみたいと思います。ただ、昼食にはいいけど、夕食にはちょっとさびしいかなぁ(^_^;) |